はじめに
グループホームなどの介護施設では、介護職員による入居者の服薬管理が重要な課題となっています。特に認知症により自己管理が困難な入居者が多く、飲み忘れや飲み間違いを防ぐ工夫が求められます。
従来、当施設では、介護職員が毎月の定期受診時に処方された薬を入居者ごとの引き出しに分け、毎日必要分を朝昼夕に分けて手渡す方法を採用していました。しかし、「定期受診の際に薬が余っている」または「受診日の前日に薬がない」という問題が多発しました。服薬管理は思っていたほど簡単ではないのです。
服薬管理方法の工夫・改善
そんな折、株式会社インディーズ・ファーマ クローバー薬局美和の薬剤師、岡崎敦之さんと岡崎陽太郎さんとの出会いがあり、私たちは彼らと定期的に服薬管理の問題点や改善方法について話し合いを重ねることとなりました。
彼らは、以前から患者が「薬剤師が思っているほど、薬を飲んでいない」または「飲めない」状況にあることについて気になっていました。しかし、普段患者と会話する機会が少なく、症状の把握や薬の副作用を早期に発見することが思うようにできず、悩んでいたのです。彼らも、患者の服薬状況や副作用の把握に課題を感じていたのです。
その結果生まれたのが、入居者ごとに5枚のお薬カレンダーを使用して1ヵ月分の服薬を管理する方法です。
介護職に求められる服薬管理とは
入居者は、内服している薬の量が多く、また複数の診療科から薬をもらっていることが多い傾向にあります。「指示されたとおりに手渡しさえすればよい」という考え方では問題に気付けないことがあります。つまり介護職員には、入居者の疾患と処方薬を俯瞰して正確に把握することが求められます。具体的には、
- 入居者の疾患把握
- 処方医薬品の理解(処方理由、処方医、症状など)
- 高齢者の薬の副作用に対する理解と観察
- 健康チェックデータと照らし合わせた副作用やアレルギー反応の把握
といった観点です。そこで、これらの情報を効率的に管理できるよう、当施設では「ひより式チームケア連携シート」(詳細は別記事を参照ください)を考案し、医療情報や服薬状況を一元管理するようにしました。この工夫より、介護職員と医療専門家の間で情報共有が円滑に行われ、より適切な服薬管理が可能となりました。
残薬に目が行かず 薬剤師の思い
新しい管理方法を導入する過程で、残薬の問題が明らかになりました。私たちは、確実な服薬方法や副作用に意識を向けていたあまり、残薬の把握に目が行っていなかったことに気付きました。
本来、毎日飲む分だけを取り出して朝、昼、夕などに分け、その都度手渡すようにすれば残薬が出るはずはありません。しかし、服薬管理には多くの介護職が関わります。多くの職員が関わると、一人ひとりの責任意識は薄くなりがちで、問題に気が付けないケースが出てきます。
ある日、薬剤師の岡崎陽太郎さんが、いつものように利用者の薬を管理している引き出しを開けて薬の補充をしていると、大量の残薬が発見されました。もし彼が発見してくれなければ、残薬は引き出しの奥の方に押し込まれたまま、何もなかったかのように過ごしていたかもしれません。
岡崎陽太郎さんは、「残薬は見つけたくない!」と話します。一人暮らしの高齢者を薬剤師が訪問する場合、施設のスタッフの前で確認するのと違って難しいと感じるそうです。なせなら、残薬確認の際、高齢者に「飲み忘れや飲みすぎなどが見つかるのではないか?」や「注意されるのではないか? 叱られるのではないか?」という思いをさせ、もし残量が見つかれば「悪いことをしたと思って心苦しくなるのではないか」と考えてしまうからです。
「薬をきちんと飲んでいるか?」これは、最も重要な問題の一つです。残薬は、誰にとってもできるだけ見つかってほしくないものです。そのため、残薬が出ない工夫や意識づけに力を入れていくべきだと考えます。
お薬カレンダーが5枚必要な理由
処方薬の飲み忘れ防止グッズとして市販されているお薬カレンダーは、①薬の飲み間違いを防ぐ、②薬の飲み忘れを防ぐ、③薬を飲んだかどうか分かるなどの効果があり、大変便利です。しかし、一般的に1週間ごとの管理のため、全体の処方状況を俯瞰しチェックがしづらいという課題があります。
定期受診が1か月毎の場合、一度に4週間分の処方薬が手元に届きます。しかし当日の分がまだ残っていますから、当日分を残したまま4週間分の処方薬を収めるには、4枚ではなく5枚が必要となります。
5枚のお薬カレンダーの運用
お薬カレンダーの枚数が多くなると、壁に掛けたり外したりの作業が大変になります。そこでさらにひと工夫。洋服を掛けるハンガーで簡単に引っ掛けられるようにするとよいのではないかと思っています。セロハンテープでハンガーに張り付けて使うこともできますが、やはり専用のハンガーで掛ける方がきれいで扱いやすいと思います。
在宅で暮らしている高齢者向けには、お薬カレンダーのポケットから薬を取り出した後にイラストや格言などが見えるようになるのも面白いと思います。また、外出時に使うカーディガンをハンガー付きのお薬カレンダーに掛けておけば、外出する際に持って行く薬の確認を忘れないようにできます。
まとめ
5枚のお薬カレンダーの導入により、次のようなことが確認できるようになりました。
- 処方状況が一望できるようになり、4週間分の処方薬の種類・量のチェックと把握がしやすくなる。
- 残薬状況が一目で確認できる。
- 下剤のように日によって調整が必要な処方薬の場合でも、お薬カレンダーのポケットにとびとびに残っている状況を見ることで服薬状況を確認できる。
- 風邪薬や痛み止めのような頓服が数日分処方された時でも、もらってきてすぐにお薬カレンダーに差し込むことで保管がシンプル・スムーズになる。
当施設では、お薬カレンダーを使って処方薬を整理することにより、飲み忘れや飲み間違いがなくなっただけでなく、9名の入居者の処方薬と残薬が把握しやすくなるという大きな効果がありました。他の施設の看護師からは、「すごい!」「勉強になる!」という意見や、反対に「人数が少ないからできるのよ!」などという意見もいただいています。果たして本当に、人数やユニット数によって「できたり」「できなかったり」するのでしょうか?ぜひ皆さんもお試しいただければと思います。
なお今回の取り組みは、株式会社インディーズ・ファーマ クローバー薬局美和の薬剤師である岡崎敦之さんと岡崎陽太郎さんからお薬カレンダーの提供によるところも非常に大きく、感謝しています。ひよりでは、今後もさらに、介護職員と医療専門家との連携をさらに強化し、より安全で効果的な服薬管理を目指していきます。
引用・参考文献
・大瀧清作:チームの連携を強めるシートの作成~薬(処方薬)に目を向けて、臨床老年介護 Vol21、No.5、P.76~81、2014
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